都下水道局のワッペンに考える「生活者とデザイン」(5)

おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。
昨日、政治の世界では歴史的な変化が起きました。
これからは新たなポジションで、がんばっていただくだけです。

それは私たちも同じこと。また今日からがんばりましょう。

さて、都下水道局のワッペンから生活者感覚とデザインを
考えるシリーズの最終回です。

過去の記事は下のリンクからご覧ください。

(1)事象紹介
(2)論点確認
(3)ネットなど市民の意見
(4)マスコミなどの意見
(5)私の意見

最終回は私の意見を述べます。

まず「論点3.シンボルマークの管理体制は適切であったか」
についてです。

都庁内でのシンボルマークの管理体制は
甘かったと言わざるを得ません。

デザインマニュアルは最低限、決裁権のある人には
浸透させておくべきです。

研修や会議の中で、職員にシンボルマークやデザインマニュアルを
守る意味などについて繰り返し伝え、
「東京都」として適切な情報発信に努めてほしいと思います。


次に「論点2.波線を追加したマークは
今までの情報発信と大きく異なるか」
についてです。

私は大きく変わる派
(情報伝達が大きく変化し重要な問題だ)です。

私は今回の波線を加えたワッペンのデザインを

「A」(エー)と「A´」(エーダッシュ)

の関係に似ていると捉えます。

「A´」(エーに点をつけているエーダッシュ)は、
「A」の仲間ではあるが「A」とは別物です。

つまり、波線の下水道局ワッペンは、
東京都の仲間であるが、東京都とは別の団体と認識される
可能性は十分あると思っています。

また、朝日新聞に掲載された天野氏の主張と同じく、
私も水色の波線を追加したワッペンは、
都全体の情報発信を乱す悪いデザインだと考えています。

石原都知事が、現場で新たなデザインを生み出すことを
「気の利いたこと」と考えているのは問題です。

他の局が勝手にマークに線などを加えることで、
東京都を識別するマークのイメージが拡散する問題や、
その結果、似たマークを使用する(東京都とは関係ない)他団体
と取り違える人が出る事態まで考慮すべきです。

仮に新しいデザインを導入するとしても、慎重に検討すべきです。


最後の論点「論点1.ワッペンの作り直しの是非」についてです。

私は波線を追加したワッペンは悪いと考えています。

ただ、それを直すためにお金をどこまでかけるべきかは
よく検討しなくてはいけません。

ワッペンの制作ミスが分かって、その後の判断を
私が求められていたらどうしていたか。

判断材料となる情報が不足している中で、
軽々しく言うべきではありませんが、
今回はあえて率直に述べたいと思います。

私は、コストをかけずに波線を消す可能性を探して、
それでも、どうしてもかかるなら、
他の広報費を一部削って作り直させたと思います。

3,400万円という金額は大きく、
できるだけ抑えたいのは間違いありません。

しかし、職員約3,000人が毎日着て外部へ情報発信することや、
下水道局の平成21年度予算が約7,000億円であることを考えると、

3,400万円よりコストを下げる適当な方法が他にないなら
支出することもやむを得ないとも思っています。

ここまで述べたように、
誤った情報発信のダメージは大きいと思っているからです。

一般的な広報費を削ってでも取り組むべき優先度でしょう。

しかし、この連載の構想のために意見や情報を集める中で、
私の意見に迷いが生じました。

作り直しの費用が広報費を削る額で捻出できないなら、
誤ったマークを謝罪、断った上で、数年間使い続けるかも
しれないと思うようになりました。

住民の税金で成り立っている行政機関としては、
多くの人にとって納得が得られる支出が求められます。

作り直しの支出は、多くの住民の理解を得られない
のではないかと思うのです。

私はデザインの重要性を当ブログで訴えてきました。
中小企業経営にぜひ活かしていただきたいと考えています。

けれども、私が一貫して訴えているのは、
デザインに対する投資の重要性です。

投資は利益(果実)を得るためのものです。

この時に、デザインに対する投資をする人と
そのデザインの受け手を考える必要があります。

前回まで見てきた論点1と論点2に対する意見は、
まさにその意見です。

今回は投資する人もデザインの受け手も同じ住民という
例ではありますが、真摯に受け止めなくてはいけません。

生活者の意見を見ていきます。

論点2を見れば、水色の波線を
「たかが線一本」「特に支障なし」と考えている
人が多いことがわかります。

デザインの受け手の多くは「たいしたことない」と考えています。

受け手にとって「たいしたことない」なら、誤ったデザインの
訂正への投資が有効かどうか、疑問符が付きます。

そして論点1を見れば、投資判断をする立場でも、
誤ったイメージを訂正するための支出は
するべきではないという意見が大勢です。

私は「たかが線一本」や「特に支障なし」とは
考えませんが、税金を支払っている都民や
デザインを見る都民の受け手の認識を
大切にしなくてはいけないと思っています。

したがって、今回の問題はとても判断が難しい問題です。

そして今回の問題は中小企業のデザイン投資にも通じます。

美的感覚の高いデザイナーは、線一本も当然気になります。
そのこだわりには、きっと価値があるでしょう。

しかし、デザイナーと生活者、顧客とは感覚が異なります。

デザインにいくらお金がかかるのか、
デザインの受け手にとってどれだけの影響を与えるのか、
そしてどれだけの利益がもたらすのか、
デザイン投資の優先度は他の投資と比べて高いか、

これらを経営者は冷静に判断しなくてはならないのです。

都下水道局のワッペンに考える「生活者とデザイン」(4)

おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。
来週は総選挙ですね。しっかり考えて投票しましょう。

さて、都下水道局のワッペンから
生活者感覚とデザインを考えるシリーズの4回目です。

過去の記事は下のリンクからご覧ください。

(1)事象紹介
(2)論点確認
(3)市民の意見
(4)マスコミの意見
(5)私の意見

今日はマスコミの論調を見ていきましょう。
2つの論点を確認します。

論点1.ワッペンの作り直しの是非
(制服は5年間を使うものと仮定します)

意見A:波線を追加したワッペンは良い。したがって作り直す必要はない。

意見B:波線を追加したワッペンは悪いが、作ってしまったものは仕方ない。費用をかけて作り直すのではなく使い続けるべき。

意見C:波線を追加したワッペンは悪い。作り直しの費用が1,000万円以下に抑えられるなら作り直すべき。それ以上支出するのなら作り直すべきではない。

意見D:波線を追加したワッペンは悪いので、作り直しに3,400万円かかるとしても作り直すべき。


論点2.波線を追加したマークは今までの情報発信と大きく異なるか

大きく変わる派(情報伝達が大きく変化し重要な問題だ)

変化は小さい派(たかが下に波線1本。たいしたことではない)


まず、読売新聞4月11日朝刊社説から見ていきましょう。
一部を抜粋しています。
(ワッペンが都の内部規定とわずかに違うことを理由に作り直したのに)「3,400万円を費やしたという。民間企業では考えられない出来事である。」
「まず責任を問うべきは、内規を杓子定規に守るために巨額の公費を使って作り直すように命じた者だ。」
(水色の波線がある)「ワッペンと作り直したワッペンの印象はそれほど違わない。」
「誤字や意匠権の問題があるならともかく、何の実害もないのに3,400万円かけて作り直すとは、税金の無駄遣いの極みだ。」

次に、同じく読売新聞4月14日朝刊「編集手帳」からです。
「『東京都下水道局』の文字に添えた水色の波線が内規と違うので削ったという。波線1本あったとて、誰が困る。何の支障がある。作り直しの費用が3,400万円とは、豪儀なものである。」

これらの文章から読売新聞の見解を推測すると、
次のように分類できると思われます。

論点1:意見Bもしくは意見C
論点2:変化は小さい派

デザインはたいした話ではなくお金を優先すべき、という主張です。

また、読売新聞は以下の通り4月10日朝刊に青山学院大の
鈴木豊教授(公監査論)の話を掲載しています。
字を間違えたのならともかく、線1本程度のことなら、都民は何とも思わないはず。内規に抵触したとしても、3,400万円の公費をかけてまで直すこととは思えない。

鈴木教授の見解は次のように推測できます。

論点1:意見B
論点2:変化は小さい派

「都民は何とも思わないはず」という強い言葉からは、
お金をかけるべきではないという主張が透けて見えます。

他紙の社説は見つけることができませんでした。

しかし、朝日新聞にはコラムニストの天野祐吉さんが
4月16日朝刊「CM天気図」で以下のように書いています。
朝日新聞には朝日新聞のロゴがある。これに勝手に模様を入れたり、字体を変えたりするのは許されない。みんながそんなことをしたら、イメージがバラバラになってしまうし、第一、むだな労力や費用がかかってしまうからだ。これは、宣伝広告の鉄則だし、常識でもある。

だから、東京都の下水道局が、制服の胸に付けるワッペンの東京都下水道局という文字の下に、水色の波型の線を入れたのは、明らかに反則である。作り直させられても仕方がない。

が、その作り直しに3,500万円かかったからといって、作り直しをさせた局の幹部に、石原都知事が「バカだね」と言うのはおかしい。

しかも石原さんは、水色の波線が入ったワッペンを見て、「むしろいいデザインだ」なんてホメている。

・・・中略・・・

それが許されるなら、交通局は線路の模様を、財務局はそろばんの模様を、建設局はトンカチの模様を、みんな勝手にワッペンに入れればいいのだ。

・・・中略・・・

なんにせよ、たるんだ話ではある。こんなことに税金を使われるのは、都民にとって迷惑千万だ。うちの奥さんなんかは『もったいない。下水道局の人たちがみんなで、自分のワッペンの青い線を消せばいいんじゃないの?』と言っている。それって名案かもしれないよ

以上から天野さんの見解は次のように推測できます。

論点1:意見B、C、Dのいずれか
論点2:大きく変わる派

こうして見ると、新聞紙上にも前回の記事で指摘した
生活者とデザイン関心層との意見の違いに似た構図があります。

日本を代表する新聞社の社説や
公監査論を専門とする大学教授と、
広告の専門家では意見が大きく異なっています。

私は一部しか見ていませんが、
ネットや人から聞いたところによると、

テレビでは、キャスターやコメンテーターの多くが
「線を消すために作り直したことは、けしからん」
という趣旨の話をしていたようです。

ここまで世論やマスコミの意見を見てきました。
前回と合わせて、意見の傾向がおおよそつかめてきました。

さて、次回はいよいよ連載のまとめです。

都下水道局のワッペンに考える「生活者とデザイン」(3)

おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。

都下水道局のワッペンから
生活者感覚とデザインを考える連載の第3回目です。

(1)事象紹介
(2)論点確認
(3)市民の意見
(4)マスコミの意見
(5)私の意見

今日は市民の意見を見ていきます。
インターネット検索で300以上のwebサイトをチェックしました。

この連載では、デザイナーやこのワッペン問題以外で
デザイン関連記事を書いている方を「デザイン関心層」と呼び、
そうではない一般の市民を「生活者」と呼ぶことにします。

ここで論点1、2について、「生活者」のwebサイト10件と、
「デザイン関心層」のブログ等10件、計20件の
意見を私が独断で解釈して集計してみました。

結果は以下の通りです。カッコ内はそれぞれ
【生活者】、(デザイン関心層)の意見数を表します。

論点1.ワッペンの作り直しの是非
(制服は5年間を使うものと仮定します)

意見A:波線を追加したワッペンは良い。したがって作り直す必要はない。
【3.5票】(0票)

意見B:波線を追加したワッペンは悪いが、作ってしまったものは仕方ない。費用をかけて作り直すのではなく使い続けるべき。
【4.5票】(1票)

意見C:波線を追加したワッペンは悪い。作り直しの費用が1,000万円以下に抑えられるなら作り直すべき。それ以上支出するのなら作り直すべきではない。
【0.5票】(1.5票)

意見D:波線を追加したワッペンは悪いので、作り直しに3,400万円かかるとしても作り直すべき。
【0.5票】(3.5票)

意見読み取れず
【1票】(4票)

(注:意見B、Cのどれかと思われる場合は、
意見B、Cにそれぞれ0.5票のように票を分けて集計しています)


論点2.波線を追加したマークは今までの情報発信と大きく異なるか

大きく変わる派(情報伝達が大きく変化し重要な問題だ)
【2票】(5票)

変化は小さい派(たかが下に波線1本。たいしたことではない)
【5票】(0票)

意見読み取れず
【3票】(5票)


こうして分析すると、同じ市民でも、

「生活者」と「デザイン関心層」では意見が大きく異なる

ことが分かります。

「生活者」は「波線があった方がよかった」、
「お金をかけてまで作り直す必要はない」という意見が多数です。

一方、「デザイン関心層」には「マークは大切なものだ」、
「大金の支出は良くないが、作り直しはやむを得ない」
という意見が多いです。

また、分類集計した20件のwebサイト以外にも、
「デザインマニュアルの管理の仕方が悪い」
「ワッペンの費用が高い」という意見が多くありました。

これらの意見は「生活者」「デザイン関心層」の両方にありました。

また、「生活者」のブログには
「ミスをした人は弁償すべきだ」という意見も見られました。

ネット上の意見は、一部の傾向を示すものに過ぎませんが、
「生活者」と「デザイン関心層」のそれぞれの意見は、
しっかり受け止めなくてはいけないと私は思っています。

しっかり受け止めなくてはいけないという理由は、
今回集計した意味と合わせて第5回で述べます。

次回はマスコミの意見を見ていきます。

最後に今回集計した20のサイトを以下に記します。

(生活者のwebサイト10件。論点1、2について述べている方を見つけた順に集めました。)

あらたにす「ささいな内規違反で3400万円散財とは」
http://allatanys.jp/P001/20090420SBK00017.html

庶民感覚無視・無駄使い・東京都下水道局のワッペン騒動に驚く
http://syuun.iza.ne.jp/blog/entry/989294/

都下水道局ワッペン作り直しに3400万円、石原都知事「バカだね」⇒ 新銀行東京はどうした
http://ameblo.jp/sansiroh/entry-10240969770.html

都下水道局、ワッペン作り直しで3,400万円。この2つのデザイン、どう思います?
http://blog.livedoor.jp/news_depot/archives/1214480.html

【東京都下水道局】ワッペン波線あるから捨てて3400万で作り直すわ
http://news-i.jp/

東京都議会議員 民主党 いのつめ まさみブログスタート!「東京都下水道局 ワッペン事件」
http://inotsume-masami.cocolog-nifty.com/gogo/2009/04/post-a8c9.html

歌は世につれ世は歌につれ・・みたいな。
http://palodysong.exblog.jp/10794069/

BBRの雑記帳「[東京都下水道局]問題はデザイン的にどうかではなくて」
http://bbrsun.blog.eonet.jp/bbr/2009/04/post-8c40.html

病床軟弱「3400万円かけワッペン作り直し―東京都下水道局のあきれた無駄遣い。」
http://blogs.yahoo.co.jp/aka59mahi/26732528.html

JRくんのつれづれなるままなるもの「あえて反論、東京都下水道局のワッペン問題」
http://jr-kun.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-53ea.html

(以下、デザイン関心層のブログ等10件。こちらは件数が少ないので論点1、2の記述がなくても集めています。)

デザイン時評「東京都下水道局ワッペン事件」
http://d.hatena.ne.jp/ittoki/20090411

SHINZLOG-CLIPS「都下水道局ワッペン作り直し問題について」
http://shinzlogclips.blogspot.com/2009/04/blog-post_10.html

DESIGN WORKS「東京都下水道局」
http://blog.livedoor.jp/printstudio/archives/51122339.html

はしくれデザイナーのつぶやき「デザインマニュアル」
http://www.ac.auone-net.jp/~kawakami/page/2009kora-01.html

僕たちの決断。今日も生きざま更新中! - アートディレクター 山口デコ のブログ
「ニュース記事の見出し感覚 - 東京都下水道局」
http://problog.jp/blog/186-01/2009/04/a_day_2.html

【ENJOY TOY AND DeSign】「常識がないのはどっちだ?」
http://d.hatena.ne.jp/Golden_Jackal/20090411/1239413665

ZOOブログ「波線ひとつで大騒ぎ」
http://blogs.yahoo.co.jp/design_room_zoo/26823203.html

オーフヌーン「デザインてなんだ」
http://ofnoon.jugem.jp/?eid=107

mediagroove「石原知事定例会見 下水道局ワッペン作り直し」
http://blog.mediagroove.jp/?eid=1021109

北海道旭川発世界へ、成功への第一歩!北のWEBプランナー奮闘記
「東京都下水道局ワッペン問題の処分は知的所有権の問題を無視しているのでは」
http://gainet.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-78ba.html

都下水道局のワッペンに考える「生活者とデザイン」(2)

おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。

都下水道局のワッペンから
生活者感覚とデザインを考える記事の続きです。

東京都内のお手洗に貼ってあるシールです。
(ちなみに今回の水色波線のルーツは、このシールのようです。)
下水道局シール.jpg

この連載は次の予定を立てています。
前回の(1)をご覧になっていない方は、下のリンクをどうぞ。

(1)事象紹介
(2)論点確認
(3)市民の意見
(4)マスコミの意見
(5)私の意見

今日は論点整理です。

このワッペンの件は、処分のあり方や
ワッペンの価格の多寡など様々な論点がありますが、
当ブログでは論点を次の大きく3つに絞ります。

論点1.ワッペンの作り直しの是非
(制服は5年間を使うものと仮定します)

この論点に対する意見を4つに分類します。

意見A:波線を追加したワッペンは良い。したがって作り直す必要はない。

意見B:波線を追加したワッペンは悪いが、作ってしまったものは仕方ない。費用をかけて作り直すのではなく使い続けるべき。

意見C:波線を追加したワッペンは悪い。作り直しの費用が1,000万円以下に抑えられるなら作り直すべき。それ以上支出するのなら作り直すべきではない。

意見D:波線を追加したワッペンは悪いので、作り直しに3,400万円かかるとしても作り直すべき。


論点2.波線を追加したマークは今までの情報発信と大きく異なるか

この論点に対する見解は大きく2つに分けます。

大きく変わる派(情報伝達が大きく変化し重要な問題だ)

変化は小さい派(たかが下に波線1本。たいしたことではない)


論点3.シンボルマークの管理体制は適切であったか

論点3は意見を分類しません。

このうち、「論点1.ワッペンの作り直しの是非」
「論点2.波線を追加したマークは今までの情報発信と大きく異なるか。」
の2つの論点については、世論やマスコミの主張を集めていきます。

これらの声を集めることで、デザインが人に与える影響の大きさや、
デザインに対する生活者の価値観を探っていきます。

「論点3.シンボルマークの管理体制は適切であったか」は
最後の私の意見の中で述べるつもりです。

まず、東京都はこれらの論点について
どう考えているか確認しましょう。

東京都下水道局は4月30日付で
webサイトに次のお詫びを掲載しています。

以下のページより引用しています。
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/oshi/infn0412.htm

「ワッペンの変更によって、約3,400万円の追加費用の支出を行いましたが、このことは、効率性と経済性を追求すべき公営企業には相応しくない対応でありました。都民の皆さまに心よりお詫びを申し上げます。
今後、改めてコスト意識の徹底など都民の皆さまの信頼回復に向けて、全力で取り組んでまいります。」

この文章からは以下のように判断できます。

論点1:意見D(3,400万かけて作り直した)は誤りであった。
(現在の考えは、意見A、意見B、意見Cのいずれかである)

石原都知事は、前回記事でご紹介した記者会見を見ると、
以下の見解と思われます。

論点1:意見A(波線のあるデザインのほうがいい。作り直す必要はなかった。)

そして、知事も下水道局も
「論点2.波線を追加したマークは今までの情報発信と大きく異なるか」と
「論点3.シンボルマークの管理体制は適切であったか」の
2つの論点にはコメントしていないようです。

これらのコメントからは、どの点が問題であったかという点で、
知事と下水道局の見解が完全一致しているか不明です。

3,400万円支出した判断は誤りだった、
という見解だけは一致しているようですが、
今後はどのような取り組みをするのか気になります。

今日はここまでです。次回は市民の声を探っていきます。

都下水道局のワッペンに考える「生活者とデザイン」(1)

おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。
全国的に梅雨明けしていない地域が多く、
今年は冷夏になりそうですね。

今日から5回にわたって連載記事を書こうと思います。

テーマは、
「都下水道局のワッペンに考える『生活者とデザイン』」です。

第1回目としてまず、都下水道局のワッペン問題が
どのようなものだったか確認しましょう。

2009年4月10日の読売新聞朝刊が、

東京都下水道局が、職員約3,000人の制服に付けるワッペン2万枚を作製したものの、そのデザインが都の内規に反していたため、新たに約3,400万円を支出して作り直していた、

というニュースを報じたことから、この問題は一気に話題になりました。

都下水道局ワッペン.jpg
当初作製したワッペン(上)と作り直したワッペン(下)
大きさ縦2.8センチ、横8.5センチ
47NEWS(共同通信)より引用
http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009041001000269.html

以下、詳細を読売、朝日、日本経済、東京の新聞各紙と
共同通信の記事を基にまとめました。

下水道局によると、当初のワッペンは昨年に作製したもので、職員のアイデアで「東京都下水道局」のロゴの下に「汚れた水がきれいになって流れる」イメージを表現しようと、水色の波線を描いた。

しかし、制服への縫い付け作業が始まった昨年11月の局内の会議で、ワッペンのデザインが都の「基本デザインマニュアル」に反することが分かり、波線のないロゴだけのワッペンに作り直した。

都のイチョウのシンボルマークの取り扱いを定めた「基本デザインマニュアル」には、「他の要素を加えない」という規定がある。

この内規「基本デザインマニュアル」を所管する生活文化スポーツ局では、内規は例外を認めないものではない、と説明している。

下水道局は「ワッペンは長期間使用するもので、内規に反していることを知りながら放置するわけにはいかなかった。大きな追加支出をしてしまったことは申し訳ない。」としている。

都は今年3月、当初のワッペンのデザインを決めた当時の部長と課長を訓告処分にした。


そして石原慎太郎都知事は、読売新聞の報道を受けて、
記事が掲載された4月10日午後の定例記者会見の冒頭発言で
以下のように述べています。

「私は今度(波線のあるデザインのワッペン)のほうがよっぽどいいと思うんだけどね。」

「下に青い水が走っていたらね、東京の下水、きれいだなって感じするし、イチョウの葉っぱがあっていいじゃない。」

「ばかだね、規格に合わないからつくり直せってんで、3,400万円かけてつくり直している。」

(新しく波線を加えたデザインを考えたことについて)「気の利いたこと」


以下、その後の記者との質疑応答です。

(記者)ワッペンの件、知事として、今後、この問題について何らかのけじめをつけるお考えみたいなものはおありでしょうか。

【知事】ばかな無駄をあえて行った、その役人の悪い意味の律儀さは世間じゃ通用しないってことで。訓戒処分ぐらいは当然します。

(記者)この問題、なぜ柔軟に対応できなかったと思われますでしょうか。

【知事】東京都の役人も我々の美徳は継続性と一貫性という、ばかなのを信じてるやつがいるわけだよ。世の中こんだけ早く変わっているときに継続性、一貫性みたいなことで、過去のものを踏襲していいデザインが出てくるわけもない。

(記者)都民の声を聞いてましても、やはりこの厳しい経済情勢のもとで、3,400万円あったら、ほかのことに使ってほしいという怒りの声が多かったんですが。

【知事】全くそうですな。だから、それをどう受けとめるかってことは、当人呼んで私が骨身にしみて、反省するようにはさせます。

(記者)知事が担当者だったら、もうこのデザインはつくり直さないということですか。

【知事】「ああ、よくなったじゃないか」と言うよ。こっちのほうがよっぽどいいと思う。

記者会見の内容は都のwebサイトの会見録を基に私がまとめました。
http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2009/090410.htm


さて、あなたはこのワッペン問題をどうお考えになりますか。

様々な論点があります。

もちろん、失敗し費用を多く支出した悪い話ではありますが、
私は生活者感覚とデザインについて考えるには
適した題材と考えます。

東京都議会議員選挙も先月終わり、落ち着いたところで、
次回からじっくり考えていきます。