おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。
昨日、政治の世界では歴史的な変化が起きました。
これからは新たなポジションで、がんばっていただくだけです。
それは私たちも同じこと。また今日からがんばりましょう。
さて、都下水道局のワッペンから生活者感覚とデザインを
考えるシリーズの最終回です。
過去の記事は下のリンクからご覧ください。
(1)事象紹介
(2)論点確認
(3)ネットなど市民の意見
(4)マスコミなどの意見
(5)私の意見
最終回は私の意見を述べます。
まず「論点3.シンボルマークの管理体制は適切であったか」
についてです。
都庁内でのシンボルマークの管理体制は
甘かったと言わざるを得ません。
デザインマニュアルは最低限、決裁権のある人には
浸透させておくべきです。
研修や会議の中で、職員にシンボルマークやデザインマニュアルを
守る意味などについて繰り返し伝え、
「東京都」として適切な情報発信に努めてほしいと思います。
次に「論点2.波線を追加したマークは
今までの情報発信と大きく異なるか」についてです。
私は大きく変わる派
(情報伝達が大きく変化し重要な問題だ)です。
私は今回の波線を加えたワッペンのデザインを
「A」(エー)と「A´」(エーダッシュ)
の関係に似ていると捉えます。
「A´」(エーに点をつけているエーダッシュ)は、
「A」の仲間ではあるが「A」とは別物です。
つまり、波線の下水道局ワッペンは、
東京都の仲間であるが、東京都とは別の団体と認識される
可能性は十分あると思っています。
また、朝日新聞に掲載された天野氏の主張と同じく、
私も水色の波線を追加したワッペンは、
都全体の情報発信を乱す悪いデザインだと考えています。
石原都知事が、現場で新たなデザインを生み出すことを
「気の利いたこと」と考えているのは問題です。
他の局が勝手にマークに線などを加えることで、
東京都を識別するマークのイメージが拡散する問題や、
その結果、似たマークを使用する(東京都とは関係ない)他団体
と取り違える人が出る事態まで考慮すべきです。
仮に新しいデザインを導入するとしても、慎重に検討すべきです。
最後の論点「論点1.ワッペンの作り直しの是非」についてです。
私は波線を追加したワッペンは悪いと考えています。
ただ、それを直すためにお金をどこまでかけるべきかは
よく検討しなくてはいけません。
ワッペンの制作ミスが分かって、その後の判断を
私が求められていたらどうしていたか。
判断材料となる情報が不足している中で、
軽々しく言うべきではありませんが、
今回はあえて率直に述べたいと思います。
私は、コストをかけずに波線を消す可能性を探して、
それでも、どうしてもかかるなら、
他の広報費を一部削って作り直させたと思います。
3,400万円という金額は大きく、
できるだけ抑えたいのは間違いありません。
しかし、職員約3,000人が毎日着て外部へ情報発信することや、
下水道局の平成21年度予算が約7,000億円であることを考えると、
3,400万円よりコストを下げる適当な方法が他にないなら
支出することもやむを得ないとも思っています。
ここまで述べたように、
誤った情報発信のダメージは大きいと思っているからです。
一般的な広報費を削ってでも取り組むべき優先度でしょう。
しかし、この連載の構想のために意見や情報を集める中で、
私の意見に迷いが生じました。
作り直しの費用が広報費を削る額で捻出できないなら、
誤ったマークを謝罪、断った上で、数年間使い続けるかも
しれないと思うようになりました。
住民の税金で成り立っている行政機関としては、
多くの人にとって納得が得られる支出が求められます。
作り直しの支出は、多くの住民の理解を得られない
のではないかと思うのです。
私はデザインの重要性を当ブログで訴えてきました。
中小企業経営にぜひ活かしていただきたいと考えています。
けれども、私が一貫して訴えているのは、
デザインに対する投資の重要性です。
投資は利益(果実)を得るためのものです。
この時に、デザインに対する投資をする人と
そのデザインの受け手を考える必要があります。
前回まで見てきた論点1と論点2に対する意見は、
まさにその意見です。
今回は投資する人もデザインの受け手も同じ住民という
例ではありますが、真摯に受け止めなくてはいけません。
生活者の意見を見ていきます。
論点2を見れば、水色の波線を
「たかが線一本」「特に支障なし」と考えている
人が多いことがわかります。
デザインの受け手の多くは「たいしたことない」と考えています。
受け手にとって「たいしたことない」なら、誤ったデザインの
訂正への投資が有効かどうか、疑問符が付きます。
そして論点1を見れば、投資判断をする立場でも、
誤ったイメージを訂正するための支出は
するべきではないという意見が大勢です。
私は「たかが線一本」や「特に支障なし」とは
考えませんが、税金を支払っている都民や
デザインを見る都民の受け手の認識を
大切にしなくてはいけないと思っています。
したがって、今回の問題はとても判断が難しい問題です。
そして今回の問題は中小企業のデザイン投資にも通じます。
美的感覚の高いデザイナーは、線一本も当然気になります。
そのこだわりには、きっと価値があるでしょう。
しかし、デザイナーと生活者、顧客とは感覚が異なります。
デザインにいくらお金がかかるのか、
デザインの受け手にとってどれだけの影響を与えるのか、
そしてどれだけの利益がもたらすのか、
デザイン投資の優先度は他の投資と比べて高いか、
これらを経営者は冷静に判断しなくてはならないのです。