今年の話題は2つです。
ひとつ目は食品偽装の問題です。
今年もホテルなどでの食事メニューに
誤表記、偽装表示があった問題が大きく取り上げられました。
あらためて論評するまでもなく、許しがたいことです。
私が気になったのは、優良ブランドとして名前が挙がる
東京ディズニーリゾート内のレストランや、
ザ・リッツ・カールトン大阪、ホテルオークラでも
この問題が発生したということです。
誰がどう判断して、偽装表示に至ったのか、
止めようとする者がいなかったのか、
それぞれのケースで異なるとは思いますが、
経営者としては、ブランドを守っていくことの
難しさをを考えなければなりません。
経営陣が自ら偽装を指示したのなら論外ですが、
従業員の誰かが間違った利益追求で行うこともありえます。
ブランドをつくり、守るには、
ブランドアイデンティティ(理念)をつくり、
日頃からスタッフ全員に徹底して浸透させなくてはなりません。
これらの企業では、偽装の発覚によって
お客様の信頼を失ったことでしょう。
それだけではありません。
これらの企業は気付いていなかったのでしょうが、
偽装が発覚する前から、実は大きなものを失っていたのです。
スタッフが仕事に対する誇りを失い、
サービス意欲の低下、会社への帰属意識の低下を招きました。
長年にわたって企業の力を大きく劣化させていたのです。
サービス業にとって、特に重要な従業員満足を
下げてしまったのです。
数字に夢中になりすぎて、一番大切なもののマネジメントが
おろそかになってしまったのでしょうか。
もう一度書きますが、これはブランド構築が
よくできているとされる企業で起こったことです。
徹底したブランドアイデンティティの浸透が
重要であることにあらためて気付かされる年となりました。
もうひとつの話題は、雑誌「広告批評」を創刊した
天野祐吉さんが10月20日に亡くなったことです。
天野さんは私が大好きな批評家、コラムニストでした。
学生時代は朝日新聞の連載コラム「CM天気図」を
毎週読んでいました。
亡くなる直前まで書き続け、
29年も続いた人気連載コラムだったそうです。
朝日新聞デジタルには、山田佳奈さんが、
以下のように書かれています。的確に表現されていると思います。
「軽妙洒脱(しゃだつ)な中にも、
さらりと核心をつくトゲをしのばす語りが特徴だった。」
http://www.asahi.com/articles/TKY201310200289.html
決して、居丈高ではなく、
広告や権力者、マスコミに“こんな考え方はどうだろうか”と
投げかけ続けていました。
粋で人間臭くて、教養がありました。
でも説教臭くない、魅力あふれる方でした。
NHKの追悼番組
「天野祐吉さん 時代に野次(やじ)を飛ばし続けて」
も拝見しました。
天野さんの生い立ちや人生観の源流をたどる場面もありました。
若い時に、わかりやすく短い言葉で野次を飛ばす人を見て、
ご自身も「野次リスト」になろうと思ったそうです。
多面的に見る、人間的に見る、そしてやさしい言葉で伝えていく、
どんどん流されて進んでいきがちな私達に、
常に立ち止まって物事を考えさせてくれました。
希望や愛情、深い洞察なしには書けない批評ばかりでした。
当ブログでもコラムを一部引用させていただいたことがありました。
http://brand-design.seesaa.net/article/126353097.html
天野さんの最後の著書「成長から成熟へ さよなら経済大国」
(集英社新書)も読みました。
http://www.amazon.co.jp/dp/4087207137
私の好きな映画、チャップリンの「モダンタイムス」の
ワンシーンと思われる写真も載っています。
同書の「おわりに」には、こう書いてあります。
日本は一位とか二位とかを争う野暮な国じゃなくていい。
「別品」の国でありたいと思うのです。
天野さん自身が別品の生き方を体現されていらっしゃったように思います。
経営コンサルタントとして、耳の痛いこともありましたが、
もうお叱りを受けられないことを悲しんでいるのは
私だけではないでしょう。
12月20日には朝日新聞出版から
「天野祐吉のCM天気図 傑作選―経済大国から「別品」の国へ」
も発売されたようです。
http://www.amazon.co.jp/dp/4022511540
CM天気図も読み直して、胸に刻み、
いい社会を作れるようバトンを受け継いでいきます。
企業は何のためにあるのか、うちのブランドは何のためにあるのか、
自問自答するのに生活者や文化の視点は大切です。
広告を見つめ続けた天野さんの言葉は、格好の教科書になります。
読者の皆様に支えられて、今年一年も執筆を続けられました。
ありがとうございました。
来年もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。