今日は少し難しい本のご紹介です。
知識デザイン企業
紺野登 日本経済新聞社
デザイン経営に関する一冊です。
著者は「モノづくり強化論」の落とし穴として、
日本企業の強みとされる品質が優れている点だけでは
勝ち抜くことは難しいと述べています。
そして、理念を掲げ、新たな経験を社会にもたらす、
モノとコトを同時に創造する「アート・カンパニー」が
求められる、とまえがきに記しています。
私は第5章の知識デザインの「方法論」において、
IDEOのデザインに特徴とされる体験的認知によるデザインと、
アップルのデザインに象徴される内省的認知によるデザイン、
の2軸の組み合わせが提示されている点が
面白いと感じています。
その前段にあたるp.164には、
ドナルド・A・ノーマンが提唱した
「体験的認知」と「内省的認知」を紹介し、
知識デザインには両方が必要だとしています。
p.166には次のように記されています。
デザインにおいても、
体験型の、現場に踏み入ってスピーディーに
プロトタイピングを行うことが重要であると同時に、
概念的な本質、本来的な真摯な追求を重ねることも
また極めて重要である。
知識デザインには、革新的な部分を
全体に包含していくような調和総合が求められ、
調和総合には美的判断力が重要であると著者は主張します。
単にイノベーションの重要性を強調しているだけはありません。
理念を掲げ、審美性をもち、
社会・環境とのつながりを考える中で、
真摯であることの重要性を訴えています。
同書は手っ取り早いノウハウ本ではなく、
概念の解説が中心です。
しかし、経営理念を考える時や商品・サービス開発に
参考になるでしょう。
落ち着いた環境でゆっくり読みたいです。
最後に私が面白いと思った箇所をもうひとつご紹介します。
p.70には、ipodの背面をピカピカに磨いた
燕市の東陽理化学研究所を取りあげ、
社長の本合邦彦氏のコメントを引用しています。
(社長が)指紋がつく問題点を伝えたら、デザイナーは不思議そうに答えた。
「汚れたら、ふけばいいじゃないか」
だから、ipodには眼鏡拭きのような布が同封されている。
こういう発想は日本にはない。勉強になった。
常識や従来の延長線上に凝り固まっていませんか?
自戒も込めて。真摯に新たな知を創る努力を続けましょう。