おはようございます。中小企業診断士の山口達也です。
今年はデザイン業界に激震が走った年でした。
新国立競技場の設計やり直しと、
2020年東京オリンピック・パラリンピックの
エンブレムの白紙撤回、の2つの話題に触れます。
今日は新国立競技場の設計やり直しについてです。
新国立競技場の設計をめぐる経緯から確認します。
新国立競技場のデザインは、
東京オリンピックの開催決定前の2012年11月に、
基本構想国際デザイン・コンクールに応募された
46作品の中からザハ・ハディド氏のデザインに
決まりました。
しかし、当初予算の1300億円に対し、
その後の見積もりはどんどん膨らみます。
2割規模を小さくしたり、
屋根の整備はオリンピック後に整備に変更したり、
8万人の観客席の一部を仮設としたりしながら、
費用を抑えようとしますが、
今年6月には2520億円となる見込みとなりました。
政府への批判が高まり、7月17日に安倍総理が
当初の計画を白紙にすると表明しました。
設計案の募集からやり直し、A案とB案の2案から
12月22日に建築家の隈研吾氏の設計案(A案)が
優先交渉権者として決定しました。
新たに決まったA案
わずかな得点差で選ばれなかったB案
ここまでが経緯です。
取り止めとなったデザインへの批判は、
「意匠や構造が適当ではない」と「費用が高すぎる」
の2つが主なものと思われます。
私は躍動感のある鋭い意匠に魅力を感じましたが、
神宮の環境になじむとは言いにくく、
街や森がこの大きな変化を受け入れるかどうかは
悩ましいところです。
また、国民の批判の多くは、
意匠や構造よりも費用面に向けられました。
批判のトーンは、ザハ案の決定時よりも、
見積もり価格が膨らんだことによって
上がっていきました。
発注を決定して、あとからコストアップは
どんどん受け入れるという公共事業のあり方が
厳しく問われたのでしょう。
物価や人件費の変動もありますから、
大規模プロジェクトの原価が当初の予定通り
いかないことは、ある程度許されると考えますが、
これまでの公共事業の中には
あえて正しく見積もりをしようとしない
不作為の罪があると思われるものも
少なくありませんでした。
例えば、東京オリンピック・パラリンピックの運営費も
当初の6倍、1.8兆円になる見込みだと、
マスコミ各社が先週末に一斉に報じています。
NHKはロンドン五輪では2.1兆円かかった、
と報じています。
そのような状況で、東京の運営費を
最初に約3千億円と見積もるほうが不自然です。
運営費の負担もこれから問題になるでしょう。
新国立競技場に話を戻します。
旧案の選定の失敗を踏まえ、
設計の見直しにおいては、
短い工期への実現性や
価格を重視して選ばれました。
再募集では、設計と施工会社が組んで
応募することが求められました。
A案は整備費が1489億円、
B案は整備費が1496億円、
と提案書にはそれぞれ記されていました。
ザハ案の見込みが2520億円になった一因に
キールアーチに765億円かかることが
報道されています。
報道の金額が正確でなかったとしても、
高額になった原因のひとつに
デザインがあることは間違いないです。
設計や建設業界の人の話を聞くと
いろいろ事情はあるようですが、
設計と施工を別に考えること、
費用の検討より挑戦的なデザインを重視したこと、
は国民の理解を
広く得るのが難しかったのかもしれません。
私は、政府や日本スポーツ振興センターの
仕事の進め方に最大の問題があったと考えますが、
費用を軽視したデザインは国民に受け入れられない、
ことも再確認させられた一件だったと思います。
NHKの世論調査では、2520億円になる建設計画には
「あまり納得できない」34%、「まったく納得できない」47%で、
「納得できない」が81%でした。
もうひとつの話題、エンブレム白紙撤回は週明けに。