2015年をデザインで振り返る(2)東京五輪・パラリンピックのエンブレム問題(上)

こんにちは。中小企業診断士の山口達也です。

2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレム問題は、
デザイン界の今年の最大の話題となりました。

書いていたら長くなりましたので2日に分けて記します。

今年の流行語にもなった「エンブレム」(emblem)は、
辞書を見ると標章や紋章という意味です。

よく使われるロゴ(logo)やシンボル(symbol)と、
ほぼ同じ意味で使われていると考えてよいでしょう。

7月24日に佐野研二郎氏のデザインによる
エンブレムが発表されましたが、
国内で大きな話題・批判を巻き起こし、
9月1日に佐野氏が撤回に追い込まれました。

佐野氏エンブレム.jpg

現在は新たなエンブレムの審査に入っています。

時系列で私が感じていたことを記します。

私が最初に佐野氏のエンブレムを見た感想は
「黒が強く、重くて地味だな。いまひとつ。」でした。

高い評価につながったアルファベットへの展開は
美しく感じませんでしたし、
TがTokyo、Team、Tomorrowを象徴している話は、
招致時のプレゼンテーションに比べて
薄っぺらいと感じました。

ただ、絶対に受け入れられない悪い作品とも思いませんでした。
私の好みはともかく、みんながよいならこんなものかなと。

似ていると指摘されたベルギーの劇場ロゴは、
佐野氏が模倣したデザインとは思いません。

それほど似ていませんし、デザインのつくり方も違うので、
裁判でもおそらく負けないと考えます。

一方で、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された
ヤン・チヒョルト展のロゴと、
修正前の佐野氏の応募した原案とは似ています。
佐野氏が影響を受けた、真似をした可能性は排除できないと思っています。

私の感想は以上です。

ここからはこの問題を通じて、
私たちが学ばねばならないことを考えます。

「類似=模倣」ではないと認識しましょう。

日本の著作権法は、創作したデザインが
他の人のデザインと偶然に同じであったとしても、
模倣していなければ著作権侵害とならないと解されています。

確かに、著作権侵害を争うケースでは、
デザインが極めて似ていると、そのデザインが
まったくの偶然で創作されたとは考えにくい
と裁判官が判断することもあります。

しかし、これはかなり慎重な判断が求められます。

今回の件では、インターネット上で似ているデザインを
探す行為が広く行われましたが、
似ている=パクリ、ではない原則を理解しましょう。

その一方で、デザイナーに創造性や独自性を期待する人が少なくない
ことも、デザイナーは知っておきたいものです。

明日はもっと大きな問題を考えます。