来週は総選挙ですね。しっかり考えて投票しましょう。
さて、都下水道局のワッペンから
生活者感覚とデザインを考えるシリーズの4回目です。
過去の記事は下のリンクからご覧ください。
(1)事象紹介
(2)論点確認
(3)市民の意見
(4)マスコミの意見
(5)私の意見
今日はマスコミの論調を見ていきましょう。
2つの論点を確認します。
論点1.ワッペンの作り直しの是非
(制服は5年間を使うものと仮定します)
意見A:波線を追加したワッペンは良い。したがって作り直す必要はない。
意見B:波線を追加したワッペンは悪いが、作ってしまったものは仕方ない。費用をかけて作り直すのではなく使い続けるべき。
意見C:波線を追加したワッペンは悪い。作り直しの費用が1,000万円以下に抑えられるなら作り直すべき。それ以上支出するのなら作り直すべきではない。
意見D:波線を追加したワッペンは悪いので、作り直しに3,400万円かかるとしても作り直すべき。
論点2.波線を追加したマークは今までの情報発信と大きく異なるか
大きく変わる派(情報伝達が大きく変化し重要な問題だ)
変化は小さい派(たかが下に波線1本。たいしたことではない)
まず、読売新聞4月11日朝刊社説から見ていきましょう。
一部を抜粋しています。
(ワッペンが都の内部規定とわずかに違うことを理由に作り直したのに)「3,400万円を費やしたという。民間企業では考えられない出来事である。」
「まず責任を問うべきは、内規を杓子定規に守るために巨額の公費を使って作り直すように命じた者だ。」
(水色の波線がある)「ワッペンと作り直したワッペンの印象はそれほど違わない。」
「誤字や意匠権の問題があるならともかく、何の実害もないのに3,400万円かけて作り直すとは、税金の無駄遣いの極みだ。」
次に、同じく読売新聞4月14日朝刊「編集手帳」からです。
「『東京都下水道局』の文字に添えた水色の波線が内規と違うので削ったという。波線1本あったとて、誰が困る。何の支障がある。作り直しの費用が3,400万円とは、豪儀なものである。」
これらの文章から読売新聞の見解を推測すると、
次のように分類できると思われます。
論点1:意見Bもしくは意見C
論点2:変化は小さい派
デザインはたいした話ではなくお金を優先すべき、という主張です。
また、読売新聞は以下の通り4月10日朝刊に青山学院大の
鈴木豊教授(公監査論)の話を掲載しています。
字を間違えたのならともかく、線1本程度のことなら、都民は何とも思わないはず。内規に抵触したとしても、3,400万円の公費をかけてまで直すこととは思えない。
鈴木教授の見解は次のように推測できます。
論点1:意見B
論点2:変化は小さい派
「都民は何とも思わないはず」という強い言葉からは、
お金をかけるべきではないという主張が透けて見えます。
他紙の社説は見つけることができませんでした。
しかし、朝日新聞にはコラムニストの天野祐吉さんが
4月16日朝刊「CM天気図」で以下のように書いています。
朝日新聞には朝日新聞のロゴがある。これに勝手に模様を入れたり、字体を変えたりするのは許されない。みんながそんなことをしたら、イメージがバラバラになってしまうし、第一、むだな労力や費用がかかってしまうからだ。これは、宣伝広告の鉄則だし、常識でもある。
だから、東京都の下水道局が、制服の胸に付けるワッペンの東京都下水道局という文字の下に、水色の波型の線を入れたのは、明らかに反則である。作り直させられても仕方がない。
が、その作り直しに3,500万円かかったからといって、作り直しをさせた局の幹部に、石原都知事が「バカだね」と言うのはおかしい。
しかも石原さんは、水色の波線が入ったワッペンを見て、「むしろいいデザインだ」なんてホメている。
・・・中略・・・
それが許されるなら、交通局は線路の模様を、財務局はそろばんの模様を、建設局はトンカチの模様を、みんな勝手にワッペンに入れればいいのだ。
・・・中略・・・
なんにせよ、たるんだ話ではある。こんなことに税金を使われるのは、都民にとって迷惑千万だ。うちの奥さんなんかは『もったいない。下水道局の人たちがみんなで、自分のワッペンの青い線を消せばいいんじゃないの?』と言っている。それって名案かもしれないよ
以上から天野さんの見解は次のように推測できます。
論点1:意見B、C、Dのいずれか
論点2:大きく変わる派
こうして見ると、新聞紙上にも前回の記事で指摘した
生活者とデザイン関心層との意見の違いに似た構図があります。
日本を代表する新聞社の社説や
公監査論を専門とする大学教授と、
広告の専門家では意見が大きく異なっています。
私は一部しか見ていませんが、
ネットや人から聞いたところによると、
テレビでは、キャスターやコメンテーターの多くが
「線を消すために作り直したことは、けしからん」
という趣旨の話をしていたようです。
ここまで世論やマスコミの意見を見てきました。
前回と合わせて、意見の傾向がおおよそつかめてきました。
さて、次回はいよいよ連載のまとめです。
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