2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレム問題は、
デザイン界の今年の最大の話題となりました。
書いていたら長くなりましたので2日に分けて記します。
今年の流行語にもなった「エンブレム」(emblem)は、
辞書を見ると標章や紋章という意味です。
よく使われるロゴ(logo)やシンボル(symbol)と、
ほぼ同じ意味で使われていると考えてよいでしょう。
7月24日に佐野研二郎氏のデザインによる
エンブレムが発表されましたが、
国内で大きな話題・批判を巻き起こし、
9月1日に佐野氏が撤回に追い込まれました。

現在は新たなエンブレムの審査に入っています。
時系列で私が感じていたことを記します。
私が最初に佐野氏のエンブレムを見た感想は
「黒が強く、重くて地味だな。いまひとつ。」でした。
高い評価につながったアルファベットへの展開は
美しく感じませんでしたし、
TがTokyo、Team、Tomorrowを象徴している話は、
招致時のプレゼンテーションに比べて
薄っぺらいと感じました。
ただ、絶対に受け入れられない悪い作品とも思いませんでした。
私の好みはともかく、みんながよいならこんなものかなと。
似ていると指摘されたベルギーの劇場ロゴは、
佐野氏が模倣したデザインとは思いません。
それほど似ていませんし、デザインのつくり方も違うので、
裁判でもおそらく負けないと考えます。
一方で、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された
ヤン・チヒョルト展のロゴと、
修正前の佐野氏の応募した原案とは似ています。
佐野氏が影響を受けた、真似をした可能性は排除できないと思っています。
私の感想は以上です。
ここからはこの問題を通じて、
私たちが学ばねばならないことを考えます。
「類似=模倣」ではないと認識しましょう。
日本の著作権法は、創作したデザインが
他の人のデザインと偶然に同じであったとしても、
模倣していなければ著作権侵害とならないと解されています。
確かに、著作権侵害を争うケースでは、
デザインが極めて似ていると、そのデザインが
まったくの偶然で創作されたとは考えにくい
と裁判官が判断することもあります。
しかし、これはかなり慎重な判断が求められます。
今回の件では、インターネット上で似ているデザインを
探す行為が広く行われましたが、
似ている=パクリ、ではない原則を理解しましょう。
その一方で、デザイナーに創造性や独自性を期待する人が少なくない
ことも、デザイナーは知っておきたいものです。
明日はもっと大きな問題を考えます。
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